演奏会レポート

2017.12.17 フィリアホール

第52回定期演奏会

フモールとコンポジション Humor und Komposition

ヴォーン=ウイリアムズ コンチェルト・グロッソ

Ralph Vaughan Williams/ Concerto Grosso

ショスタコーヴィチ(バルシャイ編)
室内交響曲(弦楽器と木管楽器のための交響曲ヘ長調) Op.73a

Dmitrii Dmitrievich Shostakovich/ Chamber Symphony in F Major,Op.73a
(arr. Rudolf Barshai from String Quartet No.3 for orchestra)

ベートーヴェン 交響曲第8番ヘ長調op.93

(ジョナサン・デル・マー校訂ベーレンライター原典版)
Ludwig van Beethoven/ Symphony no.8 in F major op.93
(Edited by Jonathan Del Mar)


フモールとコンポジション 

Humor und Komposition

「構造・組立」を意味する言葉であるコンポジションは、美術用語としては「構図」、音楽用語では「作曲」をさします。素材各部分のフォルムが持つ色やヴォリューム、動きなどを組み合わせ、目指す表現を作り上げることです。音楽ではフォルムは形式(音楽形式)と訳され、ソナタ形式とかロンド形式などの曲の形式のことを指します。しかし、音楽で形式といった場合、「音色」や「動き」は考慮されることは無く、もっぱら旋律の組み合わせを指しています。作曲行為はコンポジションである以上、旋律だけではなく、「音色」も「ヴォリューム」も「動き」もすべてを含んだものであるはずです。もっというと、ヴォリューム=質量と動き=方向があるので音とはベクトルであり、速度さえある、とも言えます。演奏行為においては、これらすべての素材の組み立てを実際の音にしてみせてこそ、音楽表現として完全なものになります。素材としての音は空気の波動であり、電磁波である光と同じように音程だけでなく、色も強さも動きも含有しています。そしてこれらの要素を楽器の出す音のフォルム(形態)に落とし込めるかどうかは、演奏家の技術力にかかっていると換言できるでしょう。そしてどのようなフォルムを作るのかというのが演奏家の個性の現れる部分であり演奏という芸術の本質であると考えます。
 今回のコンサートでは、素材を組み立てて配置するのがコンポジションであり演奏とはそれを形にする行為というアプローチを追求していきます。コンチェルト・グロッソにおけるソロ(独奏楽器群)とリピエーノ(合奏楽器群)の対立構造とイギリス民謡の美しさは、弦楽合奏という音色的モノトーンの世界でいっそう引き立つでしょう。弦楽四重奏という音色的モノクロームの世界に管楽器の「音色」を加えた再構成により、冷笑的であり滑稽なキャラクターとパッサカリアという形式美が室内オーケストラの魅力とともに浮き彫りにされるでしょう。フモール(humor)の精神と極端な強弱(ヴォリューム)の対比によって交響曲を再構築したベートーヴェンの交響曲第8番。交響曲第7番とともに初演されましたが、7番のほうに人気が集中したのに対しベートーヴェンは「聴衆がこの曲(8番)を理解できないのはこの曲があまりに優れているからだ」と語ったといいます。一見すると従来の古典的な形式に則っていますが、そこかしこに現れるユーモアは単なる恣意的な冗談でもformを並べて構成しただけの音楽でもなく、極めて意図的に予定調和を裏切ることで古い音楽を乗り越えようとする芸術家の強い意志が込められているのではという仮説を補助線にして作品に対峙してみたいと思います。