演奏会レポート

2018.6.3 第一生命ホール

第53回定期演奏会

ラヴェル/ 組曲「クープランの墓」

Maurice Ravel/ Le Tombeau de Couperin(orchestra),M.68a

プーランク/ シンフォニエッタ

Francis Poulenc/ Sinfonietta,FP.141

シューベルト/ 交響曲第5番変ロ長調

Franz Schubert/ Symphony No.5,D.485

ノスタルジア

〜nostalgia

 『クープランの墓』(原題: Le Tombeau de Couperin)は、タイトルに反して、第一次世界大戦で戦死したラヴェルの友人たちとの思い出に捧げられた曲です。原題中の “Tombeau” はフランス語で「(立派な)墓」を意味しますが、墓石に刻まれた墓碑銘から転じて「故人を讃え、追悼する器楽曲」が音楽ジャンルとしての意味になります。いわば「クープランを偲んで」といった意味なのですが、このクープランは今年没後350年を迎えるフランス・バロックの大作曲家フランソワ・クープランのこと、ではなくて、いにしえのフランス音楽全体の象徴としてクープランの名前が引き合いに出されたようです。
 「フランス六人組」のひとりであるプーランクはピカソやモディリアーニとも親交があって、共同で『竪琴とパレット』という音楽と美術のコラボレーションを行う等、非常に幅広い交友関係を持ち、当時のフランスを代表する文化人といってもよい人です。ストラヴィンスキーやプロコフィエフとも友人であり、ラヴェルを始め20世紀の主要な作曲家とは全員知り合いというレベルです。そんなプーランクの音楽の特色は、パリらしい洒脱さに加えて新古典的な明快さと多用される自己引用。そのプーランクにカルヴェ弦楽四重奏団のジョセフ・カルヴェから弦楽四重奏曲の作曲依頼が来ました。弦楽器が苦手な彼は、なんとか試演までこぎつけたものの出来にピンと来なかったため作品を破棄してしまいます。その顛末をフランス六人組の仲間であるジョルジュ・オーリックに話したところ、管楽器を入れて作り直したらどうかと提案され、後日、BBCからの委嘱を機に、捨てかけた弦楽四重奏曲のほかにも様々な自作からの引用を取り入れて作曲したのが「シンフォニエッタ」です。プーランクは「音楽でモーツァルトに勝るものはない」とも語っていますが、この作品からもモーツァルトへの敬意を感じます。
 友人との交遊の中で音楽活動をした作曲家としてもっとも有名なのがシューベルトです。シューベルト家はアマチュア音楽一家で、父親がチェロを、二人の兄がヴァイオリンを、シューベルトがヴィオラを弾き、家族で「日曜弦楽四重奏団」活動をしていました。シューベルト四重奏団は後に「ダンデルホーフ」という管弦楽団に発展。友人(といっても30歳あまり歳上!) のヴァイオリン奏者オットー・ハトヴィヒが指揮するこの私設オーケストラは、ハトヴィヒ家のコンサートでシューベルトの作品を演奏するのが常で、交響曲第5番はこのオーケストラのためにシューベルトが19歳のときに書いたものと考えられています。編成も演奏時間もぎゅっと凝縮されていますが、モーツァルト的な端正さのなかにシューベルトらしい歌心が遠慮がちに現れ、友人たちのなかでのシャイな彼の様子が見えてくるようです。彼のもとではシューベルティアーデと呼ばれる集まりが開かれ、彼の新作を聴き、ワインを片手に文学や芸術を語り合うようになっていきます。
 音楽家は孤高の存在であり、己の内面と向き合って独りで高みを目指す。そんな芸術家のイメージとは対極に、友人と集まり、語らい、意見を交わす。そんな気の置けない友人との懐かしい思い出に想いを馳せ、そっと耳を傾けてみましょう。

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