指揮者のいない室内オーケストラの演奏会レポート

東京アカデミーオーケストラ

第34回定期演奏会レポート

the 34th regular concert report

依田奈津子

「タイムクレバス×音楽的時間」

 今、ここ横浜では、3年に一度の現代美術展「横浜トリエンナーレ2008」が開催されている。今年のテーマは「タイム クレバス」。総合ディレクター水沢勉氏は次のように述べている。「優れたアートを鑑賞するには、集中力が必要。日常的な時空間を捨て、その中に没入することで経験できる。そうした芸術体験は、時間のクレバス(割れ目)にいるようなもの。普通の時空間ではない場所へ行ってしまうということです。」ジョン・ケージの『4分33秒』とデュシャンの『泉』は、音楽と美術というジャンルの違いを超えて、聞くこと・見ることとは何かという問題提議をした。音楽の本質の一つは「聞く行為」であり、聞く行為によって通常の時間から切り取られた音が音楽の起源だということが『4分33秒』によって曝かれたのだが、我々は音楽に耳を澄ますときに通常の時間の流れとは別の切り取られた時間の中に置かれるわけで、これもまた、時間のクレバス(割れ目)にいるといってよいだろう。東京アカデミーオーケストラが演奏する曲は現代曲ではなく伝統的な音楽だが、これから始まる音楽的時間にどっぷりと身を置き、日常的時空間から離れたひとときを過ごしていただきたい。
 さて、聴衆・鑑賞者の視点ではなく、演奏する側からはタイムクレバスは感じられるのだろうか。アンサンブルにおいては、個々の奏者がテンポ=音楽的時間を共有しながら、どのように「仕掛ける」かを獲物をねらう肉食動物のように狙っている。指揮者のいない東京アカデミーオーケストラの演奏では、奏者同士の呼吸の読み合いが、あたかも武道の試合のような緊張感を持って行われる。その緊張感は空間の歪みと時間の歪みを生み、日常の時間から切り離された瞬間の連続となる。それは、時間の割れ目を登る登山家のそれだ。そして登山家がそこに山があるから登るように、東京アカデミーオーケストラのメンバーは、そこに曲がある限り演奏活動を続けるのである。




ショスタコーヴィチ「ポルカ」

Schostakowitsch"Polka"

ショスタコーヴィチ「弦と木管のための交響曲」

Schostakowitsch "Symphony for strings and woodwinds" 

チャイコフスキー「組曲第1 番」

Tchaikovsky "Suite No.1"

チャイコフスキー「フィレンツェの想い出」

Tchaikovsky "Souvenir de Florence"

2008 11/16(日) 14:45開場 15:30開演
Philia hall(フィリアホール)

林昌英

住吉こずえ